昔々拘置所に拘留されてた時のこと
独房から雑居房に移されて、入った雑居房の中に一人の中年を過ぎた女性が居た。
彼女はもう十年位未決のまま、控訴をしていて出会った時には多分50才位だったと思う。
拘置所の中をすべて知り尽くしていたので、彼女のあだ名は「博士」だった。
博士は毎日、写経をし、六法全書を読んでいて
入って来る新人の量刑を見事に当てる位、博識だった。
そりゃ、十年も居ればそれも当然と言えば当然なんだけども。
ある日博士が裁判所から帰って来て、明日刑務所に行くと云うので
思い切って何をして、ここに入ったのか聞いてみた。
彼女は何度も浮気を繰り返す夫を包丁でメッタ刺ししたと云う。
裁判で殺意はあったのかと聞かれて、正直にあったと答えたとの事で。
写経は自分が殺した夫の為にしてたんだと判った。
家族も、親戚も友達も、すべて失い この十年間どんな気持ちで居たのかと思うと
気が遠くなる程の想いだったと思う。
その晩 眠れないまま考え事をしていると、隣で寝ている彼女の喘ぎ声が聞こえた。
彼女は最後の手慰みをしていた。
刑務所では出来ないだろう そして彼女が出所する頃には
彼女はもう60を過ぎる・・・
最初で最後の男を思い出しながら。
女というのは厄介だ
なんとも、やるせない切ない声が
泣けた。
そして私は朝まで眠ったふりをしていた。
彼女はどうしてるだろう。
新しい幸せを見つけてくれていることを願う。